開幕まで4カ月あまりとなった『わたしたちのルノワール展』。前回に続いて企画が動き始めた2024年、2年前のことを書いてみます。
前年(2023年)に熊本県立美術館開館50周年の企画の話が始まったと書きましたが、その際にはすでに「ルノワールと日本(人)の関係」に焦点を当てたテーマの展覧会という考えが同館にはありました。そして年が明けて2月、同館と正式に会議を行い外に向かって動き始めました。
【展覧会の大枠】
企画書には「19世紀を代表するフランス印象派の画家、ルノワール。明るく幸福な雰囲気に満ち溢れたその作品は世界中で愛され、ここ日本においても最も人気のある画家の一人といえる。なぜルノワールは日本で愛されてきたのか。その理由の一つは、その作品を日本各地の美術館で実際に見ることができるという点にあるといえるだろう。本展覧会は日本各地の美術館が所蔵するルノワール作品を一堂に集め、遠い異国の画家であったルノワールが日本に受容され、わたしたち日本人にとって身近な画家となっていくまで、いわば、『わたしたちのルノワール』になるまでの変遷を追うものである。」と書かれています。最も大事な展覧会の趣旨です。
そして展覧会の大枠~全体の点数をどのくらいにするか、です。全て油彩画とし70点程度の展覧会にしようと考えました(今ではリストに彫刻も入ってますが)。半分をルノワール、あと半分は影響を受けた日本人画家の作品で構成することにしました。ルノワール作品は一部の画家や美術愛好家たちが同時代の巨匠として学び受け入れた時代~1920年前後(大正時代、ルノワールの最晩時代)と、昭和期以降、各地の美術館に作品が収蔵され、一般の人々にも身近な存在となった時代という2つの時代に日本に入ってきた作品で構成することにしました。
【出品作品についてのリサーチ】
ルノワールを所蔵する美術館や企業のリサーチを始めました。過去のルノワール展の図録をAmazonや古書店で購入しリサーチします。またネット検索してリストアップをしていきます。公立館や大きな私立美術館は容易に調べられるのですが、企業コレクションや個人コレクションは人づてにリサーチしていきます。2024年の春頃までに国内にある大体の作品リストはできました。その頃、分かっただけで約150点でした。企画展づくりで楽しいのが、このリサーチです。思いもかけないところでいい作品を見つけたりすると嬉しくなります。そして「ドリームリスト」を熊本県立美術館に作ってもらいます。
【巡回館探し】
出品作品のリサーチと並行してやらなければならないのが開催会場探しです。大きな経費がかかる企画展は巡回会場をいくつか探します。経費を各館で分担して一館あたりの負担を軽減するためです。今回の展覧会はルノワールなので作品の評価額が相当に高く、作品にもしものことがあった際にかける保険金が比例して高くなります。ちなみに今回、評価額があまりに高くて、お借りすることを断念した作品の評価額は数十億円でした。1点がです!
そういうわけで、開催会場を探し、決めること(展覧会の営業)は、展覧会マネジメントにとっては大事なことなのです。この展覧会の趣旨に興味を持つ美術館やルノワール作品を所蔵する美術館に開催趣旨をしたためた企画書を送ります。これまでお付き合いした美術館に打診をすることになります。熊本を含め4館開催を目標にしました。10館程度に企画書を送ったところ、春頃には4館から開催希望のオファーがありました。まだ出品リストも固まっていないのに・・・・展覧会の趣旨が評価されたようです。4館(静岡、東京、大分、岡山)はこれまで一緒に仕事をした信頼関係のある館です。当初目標より多い計5会場となり、総収入も大体つかめました。内容は固まっていないものの予算が見えてきました。その数字の範囲内での展覧会づくりになっていきます。
【監修者】
展覧会は専門の美術館の学芸員とともに創っていくのですが、より高次元から展覧会をチェックしていただく監修者をたてることもあります。今回、ルノワール研究者として著名な美術館人や大学の先生、西洋美術史全般が専門の著名な美術館長など6名をリストアップしてみました。結果、かつてご一緒にお仕事をした大原美術館(岡山県倉敷市)の三浦篤館長(写真)にお願いすることにしました。日本における西洋美術研究の第一人者です。この年の秋に倉敷に出かけました。20年ぶりの再会です。展覧会の趣旨に大いに賛同いただき監修を引き受けてくださいました。
三浦館長は、最近、美術館やメディアが近代日本美術に目を向けることが少なくなり、そんな展覧会も多くは開催されず、黒田清輝、梅原龍三郎、安井曾太郎など近代日本美術の大家を知らない人が増えてきたことに危機感を持ってらっしゃいました。本展が近代日本の洋画家にも注目するという点で評価をいただきました。本展の「裏テーマ」はルノワールの影響を受けた近代日本の洋画家たちのクローズアップなのです。
【出品交渉開始】
展覧会の基礎が出来上がってきました。さあ、これから出品交渉が本格的に始まります。それは2年前の夏から秋に向かう頃からでした。(つづく)
【参考】
大原美術館:大原美術館
三浦篤館長(東京大学名誉教授、國學院大學教授でもある):三浦篤 - Wikipedia
筆者:のぎめてんもく
